パワハラ防止法が2022年4月から中小企業も義務化~企業の具体的対応策とは?
目次
2022年4月から中小企業においても労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」(パワハラ防止法)が義務化されました。
中小企業の経営者や人事担当者は、本格的な対策を具体的に継続して実施していかなければなりません。
また、職場におけるパワーハラスメントは労働者と企業に悪影響を与えるものですので、パワーハラスメント防止の取り組みは企業経営を順調に継続していくためにも重要です。
そこで今回は、職場におけるパワーハラスメントの定義と職場におけるパワーハラスメントの代表的な例、パワーハラスメントを防止するために企業が取り組むべき具体的対策について解説します。
職場におけるパワーハラスメントの定義
厚生労働省では、職場におけるパワーハラスメントの定義として、以下の3点を全て満たす行為としています。
- ●優越的な関係を背景とした言動
- ●業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
- ●労働者の就業環境が害されるもの
職場において、業務を円滑にミスなく行うためには、業務指示や指導が必要です。
そのため、職場における、上司や先輩といった優越的な立場の労働者が、業務上必要かつ相当な範囲で行う業務指示や指導はパワーハラスメントの定義には当てはまりません。
パワーハラスメントの定義上の「職場」とは、労働者が就業時間中に勤務しているオフィスなどのみを指すものではなく、労働者が業務を行っている場所であれば、取引先企業、車中、出張先なども「職場」とされます。
通勤時間中や社宅・社員寮、勤務時間外の懇親会などであっても、職務の延長であると考えられる場合は「職場」とされる場合があります。
また、職場におけるパワーハラスメント防止措置を講ずる必要のある対象は、正規社員だけでなく、契約社員やパートタイムなどの非正規社員も該当します。
パワーハラスメントの定義は上記3点を満たすものとなりますが、実際行われた行為がパワーハラスメントに該当するかどうかは、個別に判断することになります。
この章では定義を構成する3点について解説していきましょう。
優越的な関係を背景とした言動
抵抗や拒絶ができない見込みが高い優越的な関係を背景にした言動を指します。
上司や先輩といった上席からの言動が代表的な例になるでしょう。
他にも、スキルや経験をもつ労働者から、業務上そのスキルや経験を必要とする労働者に対しての言動や、同僚や部下であっても集団で一人の労働者にむけて発せられる抵抗や拒絶をすることができない言動などがあります。
厚生労働省が平成28年に調査した「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」のデータを見ると、パワーハラスメントが、上司から部下に対して行われるだけでないことが分かります。
出典:厚生労働省 「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」
業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの
社会通念上において相当な範囲を超える言動や行為を指します。
例としては、業務を行うために明らかに必要性がない言動や、業務の目的を大きく逸脱した言動、業務遂行手段として不適切な言動などがあげられます。
また、言動や行為が繰り返し行われた場合の「回数」や、言動や行為が集団で行われた場合の「行為者の数」が社会通念上許容範囲を超える場合も該当します。
業務上必要かつ社会通念上相当な範囲を超えたものに該当するかどうかの判断は、言動や行為が行われた経緯や状況、業種・業態などさまざまな要素を考慮して総合的に判断することになります。
職場において、業務を円滑にミスなく行うためには、労働者に対して業務指示や指導が必要です。
そのため、パワーハラスメントを受けたとされる労働者の「どの程度」の「どのような内容」の行動について、指導のための言動や行為が行われたかという経緯や状況は、行為者の言動や行為がパワーハラスメントに該当するかどうかの重要な判断要素となります。
ただし、労働者に問題点がある場合でも、人格の否定、年齢・経験年数、障害、外国人であること、心身の状況などについて、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動や行為が行われた場合は職場におけるパワーハラスメントに該当します。
労働者の就業環境が害されるもの
職場における言動などによって、労働者の身体的又は精神的に苦痛を与え、職場環境が害され、通常の就業ができない程度の支障が生じることを指します。
職場におけるパワーハラスメントの代表的な例
実際に起こってしまったパワーハラスメントは労働者に対しての言動や行為の目的や、経緯・状況を考慮したうえで慎重に事実確認を行い判断されますが、一般的にどのような言動や行為がパワーハラスメントとなるのか気になるところです。
厚生労働省では実際にあった職場におけるパワーハラスメントの代表的な例を6つ挙げています。
出典:厚生労働省 パワーハラスメントの具体的な内容
精神的な攻撃
職場におけるパワーハラスメントで最も多いのは、脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言などの精神的攻撃54.9%です。
具体的には、人格の否定、性的指向・性自認に関する侮辱的な言動、長時間にわたる厳しい叱責を 繰り返し行う行為などがありました。
過大な要求
2番目に多かったのが、業務上明らかに不要なことや 遂行不可能なことの強制・仕事の妨害などの過大な要求29.9%です。
具体的には、新卒採用者に対し、必要な教育を行わないで、高いレベルの業績目標を課し、達成できないと厳しく叱責する事例や、月80時間を超える残業を継続してしなければならない大量の業務を強制的にやらされていた事例などがありました。
人間関係からの切り離し
3番目に多かったのが、隔離・仲間外し・無視などを行う人間関係の切り離し24.8%です。
具体的には、同僚が集団でひとりの従業員を無視して、職場で孤立させる事例や、上司が明らかに一人の部下に対してコミュニケーションを取らない事例などがありました。
個の侵害
私的なことに過度に立ち入る個の侵害は22.3%となりました。
具体的には、労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露した事例や、出身校や家庭の事情を執拗に聞かれた事例などがありました。
過小な要求
業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないことなどの過小な要求は19.8%となりました。
具体的には、管理職である労働者を退職させるため、誰でも遂行可能な 業務を行わせる事例や、気に入らない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えない事例がありました。
身体的な攻撃
暴行・傷害といった身体的な攻撃は6.1%となりました。
具体的には、殴打、足蹴り、物を投げつけるなどの行為が実際にありました。
パワーハラスメントを防止するために企業が取り組むべき具体的対策
2022年4月から義務化された労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」(パワハラ防止法)において、企業が必ず講じなければならない具体的対策は以下になります。
事業主の方針等の 明確化および周知・啓発
パワーハラスメントは、労働者が実務を行う職場において発生するものであり、パワーハラスメントを行う側も受ける側も多くの場合労働者となります。
そのため、パワーハラスメント防止は、企業内のすべての労働者の正しい認識と正しい行動にかかっていることになります。
以下の2つの措置は企業が必ず講じなければならない具体的な措置です。
- ●職場におけるパワハラの内容・パワハラを行ってはならない旨の方針を明確化して、すべての従業員に周知・啓発する。
- ●パワーハラスメント行為者について、厳正に対処する旨の方針・対処の内容を就業規則等文書に規定し、労働者に周知・啓発する。
職場におけるパワーハラスメント防止にあたっては、企業のトップである企業経営者が、本気でパワーハラスメント防止に取り組むことを示すことが重要です。
企業経営者は、パワーハラスメント防止が、全労働者で取り組むべき企業の重要な課題であることをすべての労働者に向けて明確に発信していきましょう。
就業規則その他の職場の服務規律等を定めた文書で、パワーハラスメント行為者は、懲戒規定等に基づき厳正に対処する旨を定めます。
具体的には、就業規則本文中に、パワーハラスメント禁止規定を定めて、懲戒規定と連動させる方法や、就業規則に委任規定を設けたうえで、詳細を別規定に定める方法、企業と労働組合(労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)との間でパワーハラスメント防止に関する協定を締結する方法などがあります。
相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
職場で労働者が抱える悩みや問題を相談でき、悩みや問題に対して適切に対応できる体制を作ることは、パワーハラスメントが深刻化することを防止する効果が期待できます。
以下の2つの措置は企業が必ず講じなければならない具体的な措置です。
- ●相談窓口をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
- ●相談窓口担当者が、相談内容や状況に応じ、適切に対応できるようにすること。
深刻化して労働者の就業環境が害されてしまわないように、労働者が抱える悩みや問題を初期の段階で相談することができる相談口を設置しましょう。
すべての労働者に相談窓口があること、窓口は秘密厳守であり相談したことで労働者が不利益な取り扱いを受けることがないことを周知する必要があります。
また、相談内容や状況に応じて、適切に対応できる体制を整備しなければなりません。
相談対応の手順は、相談窓口(面談、電話、手紙、電子メールなどで受付可能が望ましい)で相談を受け、事実関係の確認を実施し、行為者・相談者へのとるべき措置を検討し、措置が決まったら対応を行います。
対応においては、行為者・相談者に対して、事実関係、措置の内容を理解が得られるように説明し、継続的なフォローアップを実施していきましょう。
職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
職場においてパワーハラスメントが起こってしまった場合、企業は以下の4つの措置を必ず講じなければなりません。
- ●事実関係を迅速かつ正確に確認すること。
- ●速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行うこと。
- ●事実関係の確認後、行為者に対する措置を適正に行うこと。
- ●再発防止に向けた措置を講ずること (事実確認ができなかった場合も含む)。
労働者からパワーハラスメントの相談を受けた場合、労働者や行為者などの印象や先入観に捕らわれることなく、公正中立な立場で相談を受け付けます。
パワーハラスメントの相談はプライバシーを尊重し秘密厳守であり、相談者がどのような解決を望んでいるかを把握して、尊重します。
相談を受け、速やかに被害者に対する配慮のための措置を適正に行います。
たとえば、相談者にメンタルヘルス不調の兆候が見られた場合医師の受診を促し、行為者からパワーハラスメントを受けないように対応します。
事実関係の確認で、行為者に事情を聴く場合は、行為者に面接を実施することとその方法について事前に相談者に同意を得ましょう。
行為者の面接においては、プライバシーを尊重し、名誉や尊厳を傷つけることなく、加害者と決めつけるような態度はとってはいけません。
行為者に対し、弁明の機会を十分に与える一方で、虚偽や隠ぺいは許さない毅然とした態度をとります。
行為者には、相談者が誰なのかを探すことや相談者と行為者同士で話し合う行為を禁止することを伝えましょう。
併せて講ずべき措置
労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」(パワハラ防止法)において、一連の取り組みを通して、企業は以下の2つの措置を必ず講じなければなりません。
- ●相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、 その旨労働者に周知すること
- ●相談したこと等を理由として、解雇その他不利益取り扱いをされない 旨を定め、労働者に周知・啓発すること
労働者が事業主に相談したこと等を理由として、事業主が解雇その他の不利益 な取り扱いを行うことは、労働施策総合推進法において禁止されています。
まとめ
2022年4月から中小企業においても労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」(パワハラ防止法)が努力義務から義務化となりました。
2022年4月から義務化された労働施策総合推進法に基づく「パワーハラスメント防止措置」(パワハラ防止法)において、企業が必ず講じなければならない具体的対策は「事業主の方針等の 明確化および周知・啓発」「相談に応じ、適切に 対応するために 必要な体制の整備」「職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応」「併せて講ずべき措置」の4つの措置になります。
中小企業の経営者や人事担当者は、本格的な対策を具体的に継続して実施していきましょう。
著者プロフィール
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング編集部
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティングは、客観的調査データを活用したCSマネジメント体制を確立。ミステリーショッピングを中心とする「トータル・コンサルティング」で、お客様の店舗に最適なソリューションをご提案します。