カスハラとクレームの違いとは?区別の判断基準をご紹介
目次
近年では、クレームとは異なるカスハラ(カスタマーハラスメント)が、大きな問題になっています。しかし、カスハラが指す状況について具体的に理解している人は少ないのではないでしょうか。
そこで、本記事では、カスハラとクレームの違いについて解説します。とくにBtoCの企業は、カスハラを理解し、適切な対策を検討しましょう。
カスハラとは?
カスハラの定義についてですが、現状(2024年10月時点)では法的定義はありません。厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」においても、以下のように記載されています。
企業や業界により、顧客等への対応方法・基準が異なることが想定されるため、カスタマーハラスメントを明確に定義することはできませんが、企業へのヒアリング調査等の結果、企業の現場においては以下のようなものがカスタマーハラスメントであると考えられています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
引用元:カスタマーハラスメント対策企業マニュアルpdf|厚生労働省
未だ抽象的な部分はあるものの、少しずつカスハラの定義は定まってきています。
クレームとは
クレームは顧客からの苦情や改善要求を指します。正当なクレームは企業成長のチャンスになるため、適切な対応をすべきです。
また、クレームには「正当クレーム」と「不当クレーム」があり、全てが否定的なものではありません。例えば、商品の不具合指摘は正当なクレームです。一方、カスハラはすべて不当な行為であり、正当性はありません。
カスハラとクレームの違い
カスハラとクレームは似て非なるものです。クレームは顧客からの要求や改善提案を含み、正当なものは企業成長につながります。一方、カスハラは嫌がらせであり、不当な要求や単なる嫌がらせ行為を含みます。
例えば、商品の不具合指摘は正当なクレームですが、理不尽な謝罪要求や暴言はカスハラに該当します。両者の区別は、要求の妥当性と行為の目的にあります。
カスハラの発生状況
カスハラは、年々増加傾向にあります。全日本自治団体労働組合の2021年8月に発表した「カスタマーハラスメント予防・対応マニュアル」によると、過去3年間でカスハラを受けた経験のある人が約半数もいることがわかりました。具体的な数値は、以下のとおりです。
● 日常的に受けている…4%
● 時々受けている…42%
● 自分ではないが職場で受けている人がいる…30%
● 受けたことはなく職場にもない…23%
● 無回答…1%
さらに、具体的なカスハラの内容についても見てみましょう。
● 暴力行為…14.3%
● 弁償や金品の要求…12.5%
● 大声・罵声・脅迫や土下座の強要…52.8%
● 暴言や説教…63.7%
● 長時間のクレームや居座り…59.8%
● 複数回に及ぶクレーム…58.7%
● 担当者の交代や上質の面談の要求…55.7%
● 勤務先の投書や苦情…47.2%
● ストーカー行為…6.7%
● SNSやネット上での誹謗中傷…9.3%
● 職員や職場の写真の公開…4.7%
● セクハラ行為…9.7%
● その他…1.3%
最も多い迷惑行為は「暴言や説教」です。
※参考元:カスタマーハラスメント予防・対応マニュアル|全日本自治団体労働組合
カスハラの増加傾向
全日本自治団体労働組合の2021年8月に発表した「カスタマーハラスメント予防・対応マニュアル」では、過去3年間のカスハラの増加傾向についても調査がされています。アンケート内で「過去3年間に増加したか?」と質問をしたところ、半数は「あまり変わらない」と回答、「増えた」は約18%、「減少した」は約8%となりました。
このことから、悪質なクレームやカスハラが増加傾向にあることがわかります。
カスハラの判断基準
厚生労働省が作成した「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によると、カスハラの判断基準として、以下にそれぞれの基準と例をまとめました。
例 |
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顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合 | ・企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合
・要求の内容が、企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合 |
要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動 | ・身体的な攻撃(暴行、傷害)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言) ・威圧的な言動 ・土下座の要求 ・継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動 ・拘束的な行動(不退去、居座り、監禁) ・差別的な言動 ・性的な言動 ・従業員個人への攻撃、要求
(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの) ・商品交換の要求 ・金銭補償の要求 ・謝罪の要求(土下座を除く) |
(引用元:カスタマーハラスメント対策企業マニュアルpdf|厚生労働省)
上記のような顧客等の言動は、カスハラに該当する可能性が高いです。
カスハラが抵触する法律
カスハラは、犯罪に該当する可能性があります。カスハラに関連する条文として、以下の内容があります。
● 【傷害罪】刑法 204 条
● 【暴行罪】刑法 208 条
● 【脅迫罪】刑法 222 条
● 【恐喝罪】刑法 249 条 1 項
● 【未遂罪】刑法 250 条
● 【強要罪】刑法 223 条
● 【名誉毀損罪】刑法 230 条
● 【侮辱罪】刑法 231 条
● 【信用毀損及び業務妨害】刑法 233 条
● 【威力業務妨害罪】刑法 234 条
● 【不退去罪】刑法 130 条
上記のように、カスハラは犯罪に抵触する恐れがあるため、「クレーム」として受け入れないように注意してください。
(参考元:カスタマーハラスメント対策企業マニュアルpdf|厚生労働省)
「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の具体例
カスハラの判断基準として「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」があります。しかし、具体的にどのような言動が該当するかの判断は難しい場合があります。
そこで、以下でいくつかの具体例を紹介します。
料金の返金や返品の要求
高額な慰謝料要求や不当な返金・返品要求は、「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」に当たります。
例えば、10万円のバッグを汚してしまった場合に、バッグの代金とは別に100万円の慰謝料を要求したり、自己過失で破損した商品の返金を求めたりするケースです。これらの要求は、実際の損害や法的責任を超えており、不当といえます。
謝罪の要求
不当な謝罪要求もカスハラにあたる恐れがあります。
例えば、些細な問題で社長や支店長の謝罪を求めたり、土下座を要求したりするケースです。
通常、商品の修理や交換など、担当者で対応可能な案件に対して、過剰に上層部の謝罪を要求するのは不適切です。また、謝罪方法として土下座を強要するのも行き過ぎた要求といえます。
企業側には対応者を決定する権利があり、顧客の一方的な要求に従う必要はありません。適切な対応と謝罪で解決できる問題に対して、過度な謝罪要求を求められた場合は、カスハラだと考えて良いでしょう。
「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の具体例
「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の具体例をいくつか紹介します。
以下の内容を確認し、カスハラであるかどうかを判断してください。
乱暴な口調や言動
怒鳴る、暴言を吐く、脅迫的な言動をとるなどは、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」に該当する恐れがあります。
例えば、「お前は頭が悪いのか」と侮辱したり、「言うことを聞かないと殺すぞ」と脅したりする行為は、明らかに不適切です。これらの行動は、問題解決よりも感情をぶつけることが目的となっており、犯罪に該当する可能性もあります。
お店に対するしつこい嫌がらせ行為
顧客等のしつこい嫌がらせ行為は、カスハラに該当する恐れがあります。例えば、長時間・連日の電話や、店舗への長時間の居座りは該当する可能性が高いです。
同じ内容を何度も繰り返す電話や、企業の回答後も納得せず執拗に連絡を続ける行為は、業務に支障をきたします。また、店舗で長時間居座り続けることで、スタッフの対応を強いることも不適切です。特に退去要請を無視して居座り続ける行為は、明らかに過剰といえます。
脅すような行為・言動
脅迫的な言動もカスハラになる恐れがあります。
例えば、「役所やマスコミに通報する」や「写真や動画をインターネットに載せる」と脅す行為は、該当する可能性が高いです。
これらの脅しは、問題解決が目的ではなく、企業を威圧して要求を通そうとする不当な手段です。特に、SNSでの拡散を匂わせる脅しは近年増加傾向にあります。このような行為は、企業の評判を不当に傷つける可能性があり、健全な問題解決の妨げとなります。
カスハラに対する対策例
増加傾向にあるカスハラに対して、企業側は何らかの対策を講じる必要があります。その参考例として、2024年4月に発表された「JR東日本グループカスタマーハラスメントに対する方針」の内容を見てみましょう。
方針の主な内容は、以下のとおりです。
① カスハラを定義づけ…カスハラの具体的内容として、顧客⇒グループ従業員に対する
「身体的・精神的な攻撃」「継続的・執ような言動」「土下座の要求」「従業員の個人情
報をSNSに投稿」等を例示
② カスハラを行った顧客には「対応せず」と明言…カスハラが行われた場合、会社とし
て当該顧客へのサービス提供やクレームを承る対応を中止するほか、悪質と判断した
場合には警察や弁護士等の然るべき機関に相談するなど厳正に対処
上記の例のように、各企業においてもカスハラに対する何かしらの策を講じる必要があるでしょう。
まとめ
カスハラは絶対に許されることではありません。企業は顧客を大切にすべきですが、カスハラに対しては、毅然と対応する必要があります。
過度な要求や脅迫的な言動には、顧客等の要求を受け入れる必要はありません。特に悪質なケースは犯罪に該当する可能性もありますから、企業側は強い意志をもって対応に臨みましょう。
また、2024年10月東京都ではほかの自治体に先んじてカスタマーハラスメント防止条例(仮称)を2025年4月より施行することが発表されました。条例では事業者の責務、カスハラ防止指針の作成・公表などについて定めています。昨今の情勢を受けて今後もこういった動きが拡大していくものと思われます。カスタマーハラスメントに対して、正しい知識と持つとともに、従業員の職場の安全向上に努めていきましょう。
結果として、これらが顧客等と企業の健全な関係構築や、従業員満足度や顧客満足度の向上につながっていくでしょう。
著者プロフィール
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング編集部
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティングは、客観的調査データを活用したCSマネジメント体制を確立。ミステリーショッピングを中心とする「トータル・コンサルティング」で、お客様の店舗に最適なソリューションをご提案します。