リニューアルした「イトーヨーカ堂幕張店」 ~ワンフロアと家族の買物の便利さで支持拡大中~
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング(ARC)のお客さまにチェーンストアの最先端の情報をお届けする“優秀チェーン”レポートの特別企画として、今回は2022年7月にリニューアルオープンした「イトーヨーカ堂幕張店」について、改めてお届けします。
実はこの店舗は、エイジスグループの本社に最も近い総合スーパー(GMS)です。ということで私たちARCのスタッフにとっては“最も利用頻度”が高い“最も親近感”のある店なのです。
今回は、そんな私たちのスタッフがリニューアル後の店舗を訪れて感じた顧客としての感想や、本来のリサーチ的な視点などを交えながら今回の幕張店の改装について報告します。
今回の改装のポイントの第一は、これまで2階にあったイトーヨーカ堂直営の衣料品売場を縮小し1階に移転、1階売場を“イトーヨーカ堂直営で運営する衣食住のフルラインで欠落ない売場”を目指したことです。
第二のポイントは、衣料品が移転した2階フロアにニトリ・デコホーム、ダイソー、ロフトなどの強力なテナントを誘致した点です(図表①)。
図表①改装後のイトーヨーカドー幕張店のレイアウト
非食品の欠落ない品揃え 重要なワンストップの優位性
1階の売場で今回意図したことは“欠落のない”という点。これはこれまでイトーヨーカ堂が消費の変化に応じて、経営構造の改革と売場の活性化に取り組んできた中で行った、とある不振店の活性化の検証からでした。
(仮にこの店をA店とすると)当時、A店では店全体の数値が振るわなかったことで効率向上の意図で直営売場面積を減少させることを意識、非食品部門ではこれまで強かった婦人、子供服、肌着などに“限定した品揃え”へと変更し活性化オープンしました。2019年8月のことです(記者会見などより)。
しかしこの1回目の改装では“ワンストップの優位性を失い商圏内の吸引力を低下させ、強かった食品の客数にまで影響”が生じて2019年度の実績は厳しいものに…。そこで再度、2020年9月に非食品の紳士、寝具、キッチン、H&Bなどを復活、フルラインの品揃えに戻し、A店を再活性化したのです。この結果、全店の売上高も、荒利高も、坪売上高も2ケタ以上上昇し、店舗成績は好調に推移したのでした。
もちろんこの時期はコロナ禍もあり、1カ所で買物したいニーズの高まった時期ではありますが、この欠落ない品揃えの支持がA店の復活につながったことは間違いありません。
今回の幕張店の改装は、この検証を受けてさらに前向きなアクションを行いました。具体的にはA店では直営売場が2層で展開されていたものを、幕張店では衣食住の直営売場全てを1階に集約したことです。衣食住全てを“1階ワンフロアで買い回りしやすい最新レイアウト”にしたのは首都圏初の取り組みとなりました。
同時に幕張店ではこれまで取り切れていなかった商圏内のヤングファミリーの客層もターゲット顧客に設定しています。入口入ると正面が婦人衣料で向かって左側が子供の文具、右側が紳士衣料など、家族全員の必要なものが、簡単に手に入ることを売場そのもので表現した形になっています。
入口の婦人VMDで楽しく 立寄り→視認→接触の流れ
ではわがARCのスタッフの受け止めはどうだったのでしょうか?
『売場入口正面の婦人衣料売場では、2体のマネキンで季節感の高いディスプレイがされていて目を引いた。マネキンが着ている服は、すぐ横に展開されて手に取りやすいようになっていて、入店した女性たちも“これいいね!”や“同じような洋服持っているから、こういう風に合わせると可愛いね”などの会話をしていた』のも聞こえてきたようです(『』内は調査員コメント)。
『婦人衣料の売場の柱には“どんな場面でもあなたらしく”というメッセージが目立つ場所にある。ファミリーで買物に来た際にまずはお母さんのハートをつかみ、そこから子供やお父さんの買物も買い回りするかのような配置になっている。入店からのファミリーの“立寄~視認~商品接触”と想定した売場づくりで商品買い上げの向上を図っていると感じる』という家族連れの買物を意識した導線計画もしっかりできています。
『洋服は買わないつもりできたけど、つい買ってしまう…、そんな楽しい気持ちにさせてくれる。改装したことで、明るくなって活気が感じられた』という声もあり、改装後の店は顧客の心も“リフレッシュ”するスペースになったようです。
『子供に関する売場が店舗入ってすぐ左のエリアに集約されたのはあちこち探しに行かなくて済むので嬉しい』というコメントもありましたし『以前に比べると、やはりギュッと凝縮したような売場となっている。商品は正面を向いて陳列されて商品が多く、何を売っているか目視で分かりやすかった。細かいフロアガイドなどをみなくてもまっすぐ歩いて商品を見つけられる印象だった』ということで、ワンフロアに集約したショートタイムショッピングの効果は大きいようです。
品揃えの多さも価格も 専門店と直営売場が保管
衣料品ゾーンを通り抜けていくと、人気の食品ゾーンにつながります。『ワンフロアで、しかも通路が広くとられているので、カートやベビーカーでもゆったりと買物が楽しめる』ということで小さな子供連れにも優しい店に感じられました。
食品ゾーンはほぼ従来のままですが、変わったのは食品レジの前の1階にも新しいテナントが入ったことです。代表的なのは菓子の製造小売りのシャトレーゼで『知名度がある店がテナントに入ってにぎわっているし、調理場がガラス張りになっており調理風景が見られるのは楽しそうで購買意欲があがる』ことにもつながりそうです。
改装のポイントは2階に強力なテナントを導入したことです。『デコホームでは食器など、ヨーカドーで売っているものと同じカテゴリのものも扱っているが、ヨーカドーにないものがあれば専門店、専門店にないものがあればヨーカドーなど、相互に補完できている』という意見もありました。
また実際に商品を購入してみて『食器、調理器具、住居商品はデコホーム、イトーヨーカドー、一部はダイソーにもあるので、デザイン、価格を検討しながら購入ができる楽しみがあった。傘についてもロフト、イトーヨーカドーにあったが、ロフトの商品展開が多く魅力的だった一方で、イトーヨーカ堂の価格も魅力的だった』という相乗効果にも結び付いています。
実は今回のARC全員参加のレポートでは、こんな顧客としての“指摘”もありました。
『国道14号側口から店内に入ると女性衣料売場が目に入った。店舗のセンターに位置するため買う立場としては通路を行きかう人の目が気になりゆっくりと選ぶ気になれない。もう少し店舗の奥まったところにある方が嬉しい』『女性下着売場と男性服飾が隣り合わせなのは少し気になった』という女性の声がありました。
ワンフロアになったことで衣食住のさまざまな商品を各所のレジで精算できる態勢になったようですが『今回食器と傘を購入したレジはどちらにも近いレジだったにも関わらず、皿を保護するスポンジ 緩衝材等の準備がなく、他のレジにスタッフが取りに行く状況が見られた』ということもあったようです。こうした運営上の課題は徐々に解消されるでしょう。
こんな声も象徴的でした。
今回は1人で訪れた女性スタッフですが『実際に家族と買物をしたときのことを想像すると、まず1階で子供が子供用品コーナーに行き何かしら買う→その間に夫が自分のYシャツなどを見たがる→私も化粧品を見る→日用品を買い足す→子供がエスカレーター近くのガチャガチャをやりたがる→自然と2階に行く→本屋、ロフト、100均、デコホームで何かしら買う→子供がゲームセンター行きたがる→お腹がすいてフードコートに行く→夕飯の買物に行く…、私の場合は短時間では済まず、逆に長居してしまうな~と思った。私はまんまと戦略に引っ掛かっていると感じた』とワンストップショッピングの便利さを感じたようです。
共働きが多く、子育てで忙しいヤングファミリーにとっては、欲しい商品が手軽に、短時間で手に入るという魅力は、何物にも代えがたいもののようです。
こんな新しい買物シーンを感じさせる、新しくなったイトーヨーカドーの幕張店でした。
コラム執筆 / 三浦美浩
1987年 東北大学卒業、損害保会社を経て商業界入社、「食品商業」編集長、「販売革新」編集長
2011年8月 商業界取締役就任
2017年1月 独立しロジカル・サポート㈱設立
2020年4月 エイジスリテイルサポート研究所所長に就任(兼任)、現在にいたる
長年にわたり小売業の現場に関わり、執筆活動と共に、分析や提言も行っている。
従業員教育にも関わりがあり、現場に即した研修には定評がある。
実査、報告書
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング㈱ 調査員
著者プロフィール
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング編集部
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティングは、客観的調査データを活用したCSマネジメント体制を確立。ミステリーショッピングを中心とする「トータル・コンサルティング」で、お客様の店舗に最適なソリューションをご提案します。