コロナ禍〝2巡目〞のサービスレベル108店舗調査
目次
安心を確保しながら〝ホッとする〞〝楽しい 〞を提供する店舗対応とは?
2019 年の年末、中国・武漢に端を発したコロナ感染症拡大。その拡大力は強く、20 年に入ると、世界各地で猛威を振るうこととなり、これまでのルールや生活様式は一変した。
そうしてチェーンストアなど小売業界においても、さまざまな変革や対応を迫られることになった。エッセンシャル=必要不可欠な存在として、懸命な営業継続を果たすべく、当初は見よう見まねでバラバラであった各社の取り組みも、コロナの発生から 2 年が経過し、ある程度の部分までコロナ感染症に対応した店舗や接客の在り方というものが見えてきているように感じられる。
そこで、改めてこの時期だからこそ、チェーンストア各社へのリスペクトを持ちつつ、各社のサービスレベルを確認しようと考えた。マスクや手袋の着用、シールド、非接触決済等ハード面の変更点など目に見えるものから、接客といった見えにくいものまで 〝With コロナ〞 における各業態各店舗の取り組み状況をリサーチ、リポートする。
<調査方法>
2014 年から 2020 年まで、毎年、販売革新編集部の企画により別冊『サービス・オブ・ザ・イヤー』を発刊してきたエイジスリサーチ・アンド・コンサルティング株式会社に調査を委託する形で 2022 年 2 月にリサーチを実施。セルフサービスの営業形態を前提に、サービス・オブ・ザ・イヤーの調査項目に準じる形+コロナ対応に特化した設問で調査を設計し、コロナ前の 2019 年の年末までに実施したデータと比較し、その違いを探った。
<主な調査項目>
A:売場づくり…売場での商品の見やすさや買いやすさ、陳列など
B1:すれ違い挨拶…売場での挨拶の実行の状況
B2:接客環境…身だしなみや接客上での雰囲気づくり
C:接客スキル(誘導案内・商品質問)…店内での接客応対
D:レジチェッカー(レジでの会計応対)…レジ挨拶や商品の取り扱い
E:ベストウエルカム…クレンリネスなどお客様を迎える環境など
F:CS(再来店意向)…また来店したいと考えるか、どうか
G:コロナへの対応(コロナ前との比較のため今回は加算せず)
<調査対象店舗内訳>
調査対象店舗はセルフサービス型で商品を提供している業態として右記の 5 業態で、30 チェーン各3店舗ずつ、無作為に抽出して調査を実施した(GMS は売場面積が広いため、食料品・衣料品・住居用品の各売場で調査)。
チェーン・企業別ランキング上位15社
チェーンのトップはツルハ、業態はドラッグ、専門店が上位
調査結果のランキング上位企業 15社は以下の通りとなった(図表①)。
チェーン別の上位入賞は、1位がドラッグストアのツルハで 88. 0ポイント、2位がコーヒーと輸入食品の専門店カルディで 86. 6ポイント、3位がスーパーマーケット (SM) のサミットで 85. 8ポイントという順位であった。次に専門店のユニクロ、ドラッグのウエルシア、スギ薬局と続いている。
上位 15 社を見ると 7 位の無印良品までが総合達成率は 80 ポイント以上で高いレベルの達成率となっている。
特にコロナ禍ということもあり、上位ランキングされた企業の全てがクレンリネスの面では 90 ポイント以上で、この面に各社が注力していること
が分かる。また 〝非接触で選べる〞 ことや 〝見やすい、分かりやすい〞 ニーズも高まっているためか、売場づくり面も上位 15 チェーン中 8 社が 90 ポイント以上のスコアになった。
ツルハは平均的に高得点を得ているが、身だしなみやレジ、クレンリネスが高得点となった。専門店ではユニクロが売場づくりで 97 ポイント超、カ
ルディ、無印良品が 93 ポイント以上の高水準で、専門店業態の売場づくり面の標準化が進んでいる。
同時に高頻度に来店&買物をしなくてはいけない SM でもセルフサービスとして売場づくりを重視する傾向が強く、サミット、ヤオコー、ベルクの上
位入賞組の売場づくりレベルは 90 ポイント以上になっている。
調査対象の企業数にばらつきがあるので、業態別に 15 位以内に入ったチェーンの割合を入賞率として計算してみる。
入賞率で見ると、専門店が 5 チェーン中 4 チェーンの 80%が上位 15位以内に入賞している。さらにドラッグストアも6チェーン中4チェーン、コンビニも 3 チェーン中 2 チェーンの 66%と、過半数が入賞している。特に専門店とドラッグストアの 2 業態が、SM のサミットを除いて上位7位までを独占するなど、突出してスコアが高いことが分かる。
店舗別ランキング上位30店
ユニクロ、カルディの2店舗が満点、ツルハ、ウエルシアは上位
店舗別の調査結果のランキング上位30 店舗は以下の通りとなった(図表③)。
店舗別の調査結果の1位はユニクロ・コクーンシティ店とカルディコーヒーファーム・アリオ蘇我店で、いずれも満点の 100.0 点を獲得した。次い
で 3 位がカルディコーヒーファーム・ららぽーと豊洲店で 97. 1点となり上位 3 位まで、いずれも専門店が入った。
専門店では ABC マートが 91.7 点、で8位、無印良品が86.4点で18位と、2 店舗がランクインした。ドラッグストアでは、チェーン別のランキングで
トップになったツルハは、調査 3 店舗の全てが上位 30 位までに入った。
同じドラッグストアでウエルシアは 3店中 2 店舗がランクインしていて、業態としてバラツキが少ない結果となっている。
業態別に上位 30 位までの入賞店舗の比率を見ると、ここでもチェーン・企業別のランキングと同様の結果となった。
最も数多くの店舗が上位 30 位に入賞したのがドラッグストアで、調査18 店舗中8店舗、内の 44%が入賞した。次いで専門店業態が 15 店舗中5 店舗の 33.3%が上位に入賞している。また調査店舗数の多い SM 業態も39 店舗中 11 店舗の 28.2%が上位に入賞した。
業態別の7セクション別達成率
専門店、ドラッグは全般で、GMS、SMは売場づくりで高得点
業態別にまとめた 7 つの調査項目のセクション別の達成率は図表⑤の通りとなった。
総合達成率で見ると、高い業態はこれまで見てきた通り専門店 80.3 ポイント、ドラッグストア 79.3 ポイント、SM74.0 ポイント、コンビニ 73.7 ポ
イントと続いた。住居関連売場は全体の平均値を超えているが、売場全体で見たポイントでは最下位が GMS の72.0 ポイントとなった。GMS の業態
の中でも、食品売場は売場づくり、すれ違い挨拶や身だしなみなどのホスピタリティ面では点数は高かったが、特に衣料品売場の達成率が 65.6 ポイントと低い結果が大きく影響した。
専門店とドラッグストアの2業態は、ほとんどのセクションの達成率が平均以上で、コロナ下においても非常に水準の高いサービスが提供されていることが分かった。
A:売場づくり 専門店とGMS、SMが高得点
売場づくりの部門では、1位が専門店 90. 9 ポ イ ン ト、2 位 が SM で90. 4ポイントと、この2業態が特に高かった。専門店では入り口周辺での売場に入ってみたいと思わせる仕組みづくりや、POP やビジュアルプレゼンテーションを使った使い方の提案が充実していた。
SM では商品の見やすさや取りやすさ、通路の買い回りのしやすさといったストレスフリーな売場づくりについて評価が高い傾向が見られた。GMSも売場づくりの面では平均値以上で、この面では各社でセルフサービスを徹底してきていたことが分かる。
B1:ホスピタリティ (すれ違い挨拶)コロナ下で対応分かれる
全セクションの中でも最も達成率が低いのが、B. ホスピタリティ部門のすれ違い挨拶となった。
コロナ下ということもあり、なんとなく声を掛けにくい雰囲気があるのだろうし、声掛けなどをしないように徹底しているチェーンもあるのだろう。
SM や GMS などは、ほとんど声掛けを実施していないのが分かる。
店舗別に確認すると、〝すごくしっかり声掛け〞 を実施している店舗(特に専門店など)と、全く声掛けがない〝サイレント接客〞 の店舗と両極端になっていることが分かる。
店舗別に見ると 108 店舗中 50 ポイント以上が 28 店舗(25.9%)でファミリーマート、スギドラッグは全店50 ポイント以上、ウエルシア、ユニクロ、カルディなどは 2 店舗が 50 ポイント以上になった。逆に SM39 店中 24 店(61.5%)、GMS27 店(売場)中 11 店(40.7%)が 30 ポイント以
下となっていた。
ホスピタリティ部門のすれ違い挨拶については、その後の接客に入れるかどうか、また、CS(再来店意向)とも密接に関係してくるセクションなの
で、アイコンタクト、適切な音量、距離、笑顔などを社内でしっかりと決めて、教育していきたい点である。
B2:ホスピタリティ (身だしなみなどの接客環境)全体で高いポイント
身だしなみや、待機状況などを評価したこの部門は、すれ違い時の挨拶と違い、かなりスコアが取れていた。特に1位のドラッグストアは 88. 9ポ
イントと突出してスコアが高い。詳細の項目別では基本的な部分(身だしなみや私語)などはほぼ完ぺきで、かつ他の部門が取れていない「店舗従業員は声を掛けやすい雰囲気だったか」という項目の達成率が他の業態に比して高かった。ドラッグストアは現在、調剤なども強化しているチェーンが多いので、こうした接客面などを重視する傾向があるのかもしれない。
またコンビニ、専門店も平均点以上のポイントとなっていて、こうした面の徹底度は高かった。
この項目は、ホスピタリティ(すれ違い挨拶)の実行率との連動性が非常高い。やはり、すれ違い挨拶にどう取り組むかが一つのキーポイントになり
そうだ。
C:接客スキル (誘導案内・商品質問)小商圏化のドラッグが好印象
接客の個別応対を評価したこの部門では、ドラッグストアが 76.2 ポイントと一番スコアが高く、次いで専門店の 74.4 ポイント、その他の GMS、
SM、コンビニ業態は同程度のスコアであった。
個別の応対状況なので、対応をした従業員の個人差もあるが、この面では全体としてしっかりと対応できているケースが多かった。
【「ツルハドラッグ イーアスつくば店」の調査員のコメント】
商品案内をしたスタッフは商品の紹介だけでなく、それぞれの使い分け方や症状、肌が硬くなったときの対応の仕方まで教えてくれて、とても親
身になって商品を案内していた。「よかったら今日はサンプルだけでも試していってみてください」とお客様への配慮もあり、商品を押し付ける感じもなくてよかった。
中でも特に1位のドラッグストア業態は近年の店舗出店が多く、競争が激しいことや、2㎞圏程度の小商圏という地域密着型で営業をしていることもあり、親身で丁寧な対応が多く見られ
た。店舗ランキングで 26 位だったツルハドラッグの店では、サンプルの使用なども勧めるなど好印象の接客も見られた。
D:レジチェッカー (レジ会計応対)専門店、ドラッグ、SMが重視
買物時に必ず通過することになるレジ。コロナ下では特にセルフレジやセミセルフレジ、キャッシュレス決済がかつてないスピードで相次いで導入されたこともあり最も変化した部門である。また、レジ袋の有料化や、感染症対策によるシールドの設置など、ここ2年足らずで多くの変化が起きている部門だ。
レジチェッカーの部門で一番スコアが高かったのは、専門店の 89.7 ポイントで「商品を丁寧かつスピーディに取り扱ったか」の項目以外は、全ての調査項目で全業態の平均値を上回った。接客応対を基本とするこの業態がレジ部門をかなり重視していることが分かる。
ドラッグストアは調査項目 9 項目全てで全業態の平均値を上回っていて、セルフサービスを基本とする業態でも高いレジ作業のレベルになっている。既述の通り、小商圏での接客を重視する傾向がこうした点にも表れたようだ。
SM も読み上げ登録は各社でルールが違うこともあり、この項目以外は全て平均値以上でレジを重視する傾向は強かった。GMS は食品売場などのレジでの挨拶、アイコンタクト、再来店を促す言葉など項目のルール変更などを行うチェーンもあったためか、業態平均で 70.7 ポイントとなっている。
E:ベストウエルカム クレンリネスは8割が満点
クレンリネスは今回の調査では全ての業態が高いスコアになっている。全30 チェーンの内、100 点満点のチェーンが 23 チェーンに及び、多くの企業がクレンリネスをかなり重視していることが分かった。
E:カスタマーサティスファクション 再来店意向は専門店が突出
一連の買物体験を通して、「また来たい」と思ったかどうかを測定したCS(再来店意向)の部門でもやはり、総合得点が高かった専門店が 77.8 ポイントで1位であった。
逆に他の業態は平均値の周辺に分布していることが分かる。調査員のコメントからは 〝品出しなどで忙しそうで余裕がなさそう〞〝真顔、挨拶がない〞といったコメントが多く見られてい
て、特に GMS や SM は専門店より広い売場、多い客数や販売点数など売場、必需品の販売を維持することに注力されていて、逆に余裕がなさそうな状況が感じ取られたようだ。多くの業態で
売上が平準化する傾向も見られており、今後のサービスレベルの再確認、再定義が必要かもしれない。
2019年と〝Withコロナ〞2022年の変化
激変したすれ違い挨拶、重要なのは声よりも〝大きな笑顔〞か
基本的に今回調査の調査項目はこれまでの「サービス・オブ・ザ・イヤー」に合わせて設定した。そこで、コロナ前の調査「サービス・オブ・ザ・イヤー 2020」(調査 2019 年 10 ~ 12 月)のデータと、今回調査(2022 年 2 月)の結果数値の比較を行った。
売場づくり部門ではSMが大きく伸びる
専門店を除く、GMS、SM、ドラッグストア、コンビニの 4 業態の総合達成率を比較すると、GMS を除く 3業態はスコアが伸びた。
部門別で見ていくと、売場づくりの部門では SM 業態のスコア伸長が突出していて、これはコロナ下においての消費行動の変化(買物頻度が下がり、
店舗の滞在時間も減り、逆に一回当たりの購入品目数や、金額が上がる)にいち早く対応した点が評価されたと言える。店のカートが使いやすい売場、商品を選びやすい(選ぶ時間が短くなる)陳列、分かりやすい価格表記などに取り組んだ結果といえる。
一方、ホスピタリティの部門ではドラッグストアを除く全ての業態でスコアが低下している。特に SM のスコアの低下が大きく、これはすれ違い挨拶
などのアクションの見直しなどが影響していると考えられる。一方で、ドラッグストアは挨拶の面も含めてスコアが上昇している。
売場案内などの接客スキルについては、コンビニの数値が上がっていて、またレジの部門は GMS を除く全ての業態でスコアが上がった。
コロナ感染拡大による消費行動の変化を受けて各業態でいろいろな変化が出ていた。接客がしづらくなった分、売場づくり、商品の見やすさ、選びや
すさ(POP の工夫など)、取りやすさなどは全体的に数値が伸び、フロアでの声掛けは大きく低下したことが分かる。
クレンリネスはどの業態もスコアが上昇し、ウイルス拡大の中で安心・安全への消費者の目が厳しくなったことで、店舗側が一層清潔感に関して敏感
になっていることの証左の一つとなっている。
今回の調査で大きく見ると、最もスコアを落としたのがすれ違い時の挨拶と笑顔である。〝コロナ下〞 の 2022年 2 月の調査と、コロナ前の 2019
年の数値を比較分析したところ、声掛けは CS(顧客満足)にあまり影響を与えていなかったが、笑顔と CS の相関が生じていたことが分かる。
端的にいえば、店側もお客の側もマスク姿で声掛けが行い難い、お客も聞き取り難い状況でも、笑顔が見られれば CS は保てるという関連性である。
一方、マスク着用の際は店のスタッフが小さな笑顔をしていても笑顔と認識されづらいのは確かなので、その意味ではコロナ下のサービスレベルは感染防止に加えて、売場づくり、クレンリネス、マスクを着けていても行える〝大きな笑顔〞 ということだろう。
サービスの再定義必要なコロナ3巡目の小売業
コロナ禍が常態化する 〝With コロナ〞 になり、良い意味でもそうでない意味でも、店もお客も落ち着いてきているだろう。しかし、なかなか 〝安心して〞〝ホッとする〞〝楽しい〞 買物に出掛けられる環境にはならず、ストレスの多い状況は続いている。
そんな状況だからこそ従業員の働く環境を守り、感染予防を徹底し安心を守りながら、〝買物という普段=日常〞にホッとする、願わくは楽しい場を提供できる店が不可欠であり、そんな状況を提供できるサービスレベルの再構築、再定義は欠かせない。そんな時期に来ているように感じられる 〝コロナ3 巡目〞 である。
◎注1:ホスピタリティは「サービス・オブ・ザ・イヤー2020」の調査では 〝1セクション〞 であったため、今回のホスピタリティ1と2は合算して比較
◎注2:専門店は、「サービス・オブ・ザ・イヤー」企画では化粧品・宝飾などセルフサービス以外の業態があり、比較対照が難しいため今回は割愛
著者プロフィール
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング編集部
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティングは、客観的調査データを活用したCSマネジメント体制を確立。ミステリーショッピングを中心とする「トータル・コンサルティング」で、お客様の店舗に最適なソリューションをご提案します。