若手の正社員が辞める理由~離職が多い職場の特徴と対策とは ?
企業の人材不足がすすむなか、若手の正社員の離職が大きな問題点となっています。
新たな人材を採用して育成する過程で企業は多大な労力と時間、資金を投入します。
将来に向けて企業にとって有力な戦力である若手社員が離職してしまうことは企業にとって大きなマイナスです。
そこで今回は、若手社員の離職状況の最新のデータを紹介しながら、離職が多い職場の特徴を確認し、若手社員の離職防止のための対策を解説します。
この記事を読むことで、人材の離職対策のヒントが得られるはずです。
若手の正社員の離職状況
厚生労働省の取りまとめた令和2年度における「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況」によると、新規学卒就業者の3割以上が3年以内に離職していることが分かります。
引用元:厚生労働省 新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況
人材の流動化が進み、若手の正社員が転職しやすくなった背景はあるかもしれませんが、企業にとっては時間と労力をかけて採用した貴重な人材が流出していくことは大きな痛手です。
厚生労働省の「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況」では、事業者規模によって区分した、離職率のデータも取りまとめています。
引用元:厚生労働省 新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況
あくまでデータ上の割合ではありますが、事業所の規模が小さくなるほど離職率の割合が高くなっていることが分かります。
事業所規模に関わらず、離職を防止する対策を実施することは重要ですが、事業所規模が小さい企業はより離職を防止するための対策を考え実行していく必要性が高いとえるのではないでしょうか。
離職率の高い業界
引用元:厚生労働省 新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況
厚生労働省の「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況」によると、新規学卒就職者の産業別就職後3年以内離職率のうち、離職率の高い上位5業界は以下の順位なっています。
・ 1位:宿泊業,飲食サービス業(51.5%)
・ 2位:生活関連サービス業,娯楽業(46.5%)
・ 3位:教育,学習支援業(45.6%)
・ 4位:医療,福祉(38.6%)
・ 5位:小売業(37.4%)
データ全般を見て分かるのが就職後3年以内の離職率の高さです。
5位の小売業が37.4%ですから、上位5位の業界は離職率が約4割以上となります。
さらに、3位の教育,学習支援業は45.6%で4割を超え、1位の宿泊業,飲食サービス業では5割を超えています。
厚生労働省では「雇用動向調査結果の概要」において、業界ごとに従業員の離職率をまとめています。
「雇用動向調査結果の概要」は、若手社員に限ったデータではありませんが、離職率が高い業界として参考になるでしょう。
厚生労働省 令和3年上半期雇用動向調査結果の概要 産業別の入職と離職
厚生労働省の令和3年上半期雇用動向調査結果の概要によると離職率の高い上位5業界は以下の順位なっています。
・ 1位:宿泊業,飲食サービス業(15.6%)
・ 2位:教育,学習支援業(12.4%)
・ 3位:生活関連サービス業,娯楽業(11.0%)
・ 4位:サービス業(他に分類されないもの)(9.7%)
・ 5位:医療、福祉(8.6%)
離職率の割合を「雇用動向調査結果の概要」「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況」ともに離職率が最も高かった宿泊業,飲食サービス業を例に単純に比較すると、以下のようになり就職後3年以内の離職率の高さが目立ちます。
「雇用動向調査結果の概要」
宿泊業,飲食サービス業(15.6%)
「新規学卒就職者の就職後3年以内の離職状況」
宿泊業,飲食サービス業(51.5%)
他の業界においても同様に就職後3年以内の離職率が高くなっているのが分かります。
上位5位の業界は、小売業以外の、宿泊業,飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業、教育,学習支援業、医療,福祉が重なり、離職率が高い業界は、就職後3年以内の若手社員の離職率も高いことがデータで見て取れます。
離職率が高い業界は入職率も高い
上記の厚生労働省の令和3年上半期雇用動向調査結果の概要の表では離職率だけでなく入職率もグラフ化されています。
入職率の高い上位5業界は以下の順位なっています。
・ 1位:生活関連サービス業,娯楽業(21.3%)
・ 2位:教育、学習支援業(12.9%)
・ 3位:宿泊業、飲食サービス業(12.0%)
・ 4位:学術研究,専門・技術サービス業(10.3%)
・ 5位:サービス業(他に分類されないもの)(10.1%)
学術研究,専門・技術サービス業以外の、生活関連サービス業,娯楽業、教育,学習支援業、宿泊業,飲食サービス業、サービス業(他に分類されないもの)については、入職率、離職率ともに上位5位に入っており離職率が高い業界は入職率も高くなっています。
つまり、従業員が多く入り多く辞めていく業界は、離職率が高くなっていることが推測されます。
言い換えれば離職が多い職場は、従業員の転職が多く流動性が高いといえるのではないでしょうか。
離職が多い職場の特徴
厚生労働省の令和3年上半期雇用動向調査結果の概要には、転職入職者が前職を辞めた理由が男女別・年齢別まとめられています。
この理由を分析すると、離職が多い職場の特徴が推測されるでしょう。
転職入職者が前職を辞めた理由(個人的理由)の上位は以下になります。
男性
1位:職場の人間関係が好ましくなかった(13.1%)
2位:給料等収入が少なかった(9.9%)
3位:会社の将来が不安だった(9.6%)
女性
1位:労働時間、休日等の労働条件が悪かった(15.5%)
2位:会社の将来が不安だった(11.7%)
3位:給料等収入が少なかった(11.1%)
※若手社員を入社3年目まで として、20歳から24歳のデータを使用
※その他の個人的理由を除く
引用元:令和3年上半期雇用動向調査結果の概要 転職入職者が前職を辞めた理由
●労働時間、休日等の労働条件が悪い
労働時間、休日等の労働条件が悪い職場は離職率が高くなります。
たとえば、休憩や休日の決まりがあいまいで、有給休暇も取りにくい職場などがあげられます。
労働時間の決まりは、労働基準法でも決められており、1日の労働時間を8時間以内、1週間の労働時間を40時間以内と定めています。
たとえば、時間外労働が多く従業員の働き方に合わない場合や、多様な働き方に対応できる制度が充実していない職場などがあげられます。
●職場の人間関係が良くない
職場の人間関係が良くない場合も離職につながります。
たとえば、職場のパワーハラスメントや それに近い人間関係があった場合、従業員は精神的・身体的に苦痛を感じ離職につながる可能性が高まるでしょう。
●会社の将来が不安
転職入職者が前職を辞めた理由の中で、会社の将来が不安という理由は、給料等収入が少なかったという理由とともに男女とも上位にあがっています。
社会環境や市場の変化で働いている企業が業績不振に陥るケースは多くみられます。
たとえば、新型コロナウイルスの出現は、多くの企業にマイナスの影響を及ぼし、将来に不安を抱かせることも多かったと思います。
こうした、不測のケース以外でも、従業員に対して、企業のビジョンや理念を明確化し、従業員に伝えていく取り組みをしないことで、従業員が会社で働くことに対して意義を見失い会社の将来に不安をもつことがあります。
●給料等が低い
給料等が低い点も離職が多い職場の特徴といえるでしょう。
若手社員は、今の職場よりも高い給料の職場を求めて転職するのではないでしょうか。
※令和3年上半期分抜粋
引用元:令和3年上半期雇用動向調査結果の概要 転職入職者の賃金変動状況
令和3年上半期雇用動向調査結果の概要の転職入職者の賃金変動状況を見ると、20歳から24歳までの年齢層の転職入職者の賃金変動は47.7%が増加しており、他のすべての年齢層と比べると最も高い割合になっています。
また、賃金が増加した転職入職者の中でも1割以上増加した割合は、39.1%となり20歳から24歳までの年齢層の転職入職者の約4割が転職によって賃金が1割以上増加したことになります。
この割合については他のすべての年齢層と比べ群を抜いて最も高い割合になっています。
つまり、若手社員といわれる20歳から24歳までの年齢層は、転職市場において最も給与アップが狙える年齢であるといえるのではないでしょうか。
したがって、若手社員が自分のスキルと経験からすると、現在働いている職場は給料が低いと感じた場合、離職して転職を考える確率が高いといえるでしょう。
若手社員の離職防止のための対策
離職が多い職場の特徴を踏まえて、この章では若手社員の離職防止のための対策を解説します。
●労働時間、休日等の労働条件整備
適切な労働時間管理をおこなうことは、離職防止の基本です 。
若手社員の長時間労働を減らし、気兼ねなく有給休暇の取得できるようにしていきましょう。
働き方の見直しとして多様な働き方を推進していくことも重要です。
たとえば、フレックス制度の導入やテレワーク環境整備による在宅勤務の推進などがあります。
休暇制度の整備も必要です。
たとえば、育児休業や介護休業取得推進、リフレッシュ休暇やアニバーサリー休暇などの特別休暇の導入などがあげられます。
●職場環境の改善
若手社員が職場の人間関係を理由に離職してしまうことを防ぐには職場環境の整備が必要です。
職場全体で、社内コミュニケーションの活性化を図り、若手社員がひとりで悩みを抱えてしまうことを防止していきます。
具体的には、部門・部署の枠を超えた社内イベントの開催、リモートワークでもコミュニケーションが取れるチャットツールの導入などがあります 。
また、上司と部下の関係がうまくいかない場合も若手社員にストレスを感じさせてしまう可能性があります。
上司や先輩社員によるパワーハラスメントが起こる可能性がある職場風土をなくし、万が一ハラスメント行為があった場合は厳格に対応していきます 。
若手社員と円滑なコミュニケーションを継続するためにも1on1ミーティングやメンター制度を導入して上司と若手社員のコミュニケーションを改善していきましょう。
さらに、職場のメンタルヘルスのために、ストレスチェックなど、若手社員の心のケアを行う取り組みや、健康管理を企業の経営課題として位置づける健康経営に取り組むことも重要です 。
●企業理念・ビジョンの明確化
企業理念・ビジョンは、給与や労働条件のほかにも、従業員が企業で働くことの意義となるものです。
企業理念・ビジョンによって、若手社員は、組織の将来のあるべき姿を知り、何のために仕事をするのかという方向を明確に知ることができます。
企業経営者が企業理念・ビジョンを明確化して、若手社員に伝播していくことで漠然と会社の将来に不安を感じることを未然に防止することにつながるでしょう。
●給料についての対策
現在はインターネット上に、転職に関する情報があふれており、転職サイトに登録すれば、スキルと経験に応じて数多くのオファーを受けることが可能です。
同業他社との給料比較も若手社員は簡単に手に入れることができるはずです。
そのため企業は若手社員のスキルと経験に応じ、適切な給料を支払うように注意しなければなりません。
給与制度を見直すこともひとつの方法です。
たとえば、業績によるインセンティブ制度や各種手当の拡充、資格やスキルに応じた給与加算などがあります。
そうはいっても、現実的には簡単に給料アップができるとは限りません。
給与の基準となる人事評価や目標管理を改善したり 、キャリアアッププランの ための制度などを作り、従業員に周知していくことで離職防止に努める必要があるでしょう。
若手社員とコミュニケーションをとり、給料についても相互に話し合うことも重要です。
まとめ
若手の社員が辞める理由は、「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」「職場の人間関係が好ましくなかった」「会社の将来が不安だった」「給料等収入が少なかった」といった理由が上位を占めています。
つまり、若手社員の離職が多い職場には、「労働時間、休日等の労働条件が悪い」「職場の人間関係が良くない」「会社の将来が不安」「給料等が低い」という特徴があるといえるのではないでしょうか。
若手社員の離職防止のための対策としては、労働時間、休日等の労働条件整備、職場環境の改善、企業理念・ビジョンの明確化、給料についての対策などがあります。
将来に向けて企業にとって有力な戦力である若手社員が離職してしまうことは企業にとって大きなマイナスです。
今回の記事を参考に若手社員の離職防止のための対策を実行していきましょう。
著者プロフィール
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング編集部
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティングは、客観的調査データを活用したCSマネジメント体制を確立。ミステリーショッピングを中心とする「トータル・コンサルティング」で、お客様の店舗に最適なソリューションをご提案します。