カスタマーハラスメントを受けたらどうする?企業が取り組むべき対策

コラム

近年は、年々カスタマーハラスメント(カスハラ)の事例が増加しています。

 

職場におけるパワーハラスメント、セクシャルハラスメントが2022年から過去三年間減少傾向であるのに対し、カスタマーハラスメントについては、件数は年々増加しています。

 

2022年2月、厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等を作成しました。アフターコロナの時代、そしてインフルエンザ等の季節性の流行り病続く中、企業は早急にカスタマーハラスメントに対する対応策を構築しておく必要があるようです。

 

そこで今回は、厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を参照し、企業やその従業員がカスタマーハラスメントを受けた場合に、企業として取り組むべき対策について解説していきます。

 

カスタマーハラスメントとは

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カスタマーハラスメントの定義ですが、顧客や取引先に対しての対応やハラスメントに対する基準は企業や業界によって異なることが想定されます。
ですので、これといった明確な定義はできませんが、企業で実際に起こっているカスタマーハラスメントの現状と照らした場合、共通で言えることとして、以下のように考えられています。

 

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
引用元:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

 

カスタマーハラスメントは、企業内(従業員間)で起こるパワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントとは異なります。カスタマーハラスメントは、一言でいうと、顧客や取引先から従業員が受けるハラスメントのことです。

 

カスタマーハラスメントはパワーハラスメント、セクシャルハラスメントと同様、対応には十分注意しなければならないのですが、企業にとって、従業員を守る一方で
顧客や取引先は売上に関係するため、その関係性は非常に重要です。そのためどこまでをカスタマーハラスメントと認めるかが難しいところです。

 

 

カスタマーハラスメントと企業内のハラスメントとの違い

カスタマーハラスメントと企業内のハラスメントはいくつかの大きな違いがあります。違いについては大きく分けて以下の2点があります。

 

カスタマーハラスメントは未然防止が困難である

企業内のハラスメントは、経営者からのメッセージ、従業員への継続的な啓もうや研修の実施、社内風土の改善、コミュニケーションアップ施策、1on1ミーティングなど、定期的にハラスメントを未然に防ぐための対策を講じることができます。

一方、カスタマーハラスメントですが企業内のハラスメントと比べ、企業から顧客や取引先に対してハラスメントを未然に防ぐための対応を取ることは簡単ではありません。

 

ハラスメント行為者に対する措置が困難である

企業内のハラスメントは、ハラスメントの被害を受けた従業員が企業に申し出ることが可能です。ハラスメント行為が発覚すれば、ハラスメント行為者に対して企業は何らかの措置を取らなければなりません。

一方、カスタマーハラスメントは、企業の基準でカスタマーハラスメント行為があったと認定された場合であっても、ハラスメント行為者である顧客や取引先に対して、なんらかの措置をする場合は、企業内のハラスメントと比べるととても困難だといえます。
場合によっては、定型約款や裁判などの対応が必要となり、解決までに長時間を費やすだけではなく裁判の費用がかかります。

 

カスタマーハラスメントを受けたらどうする

では、実際に従業員が顧客や取引先からカスタマーハラスメントを受けた場合、どのような対応が相応しいのでしょうか。

カスタマーハラスメントの対応は、大きく分けて現場での初期対応と、事後対応に分けられるでしょう。

 

現場での初期対応

従業員が顧客や取引先からカスタマーハラスメントの疑いがある行為を受けた場合は、顧客や取引先の方(当事者)が、現場にいる場合や電話口に出ている場合が想定されます。

 

この現場での初期対応は、さらに大きなカスタマーハラスメントにつながらないようにするためにも重要です。

 

現場の初期対応ですが、通常は対応した従業員が行います。

ただし、カスタマーハラスメントの中でも、暴力やセクシャルハラスメントを受けた場合は、明らかにカスタマーハラスメントですので、ただちに従業員は対応をやめ、上席に相談し対応を引き継ぐようにします。

 

限定的な謝罪をする

自社や対応した従業員に些細なことでも過失はないか、顧客や取引先のクレームに根拠はあるか等状況把握ができていない状況下では、非を認めるのではなく、限定的に謝罪するようにします。あくまでも企業として全ての非を認める発言は避けるようにしましょう。

たとえば「不快な思いをさせてしまい、申し訳ございません」といった対応をして、不快な思いに対して限定的に謝罪します。

 

 状況を把握する

カスタマーハラスメントとは、発生したタイミングですぐに解決されるものではありません。

そのためにも、顧客や取引先の名前と住所、連絡先などの情報を記録することが大切です。
そして顧客や取引先からのクレームの申し出を傾聴して、内容を正確に把握します。

話を傾聴する姿勢は、顧客や取引先の感情を沈下させる効果が期待できます。理不尽な苦情であっても、一旦話を聞き終えましょう。、その後で分かりにくかった点や聞かなければならない項目などを聞き出します。

顧客や取引先の申し出を受け、事情が確認できた時点で事実とは異なる顧客の思い違いが明らかであれば、正しい情報を伝えていきます。そして、対応中は気持ちを落ち着かせ冷静に対応します。

 

上席や企業の相談窓口に情報共有する

顧客や取引先からの申し出は上席や相談窓口に共有します。
共有では事実関係を時系列で、顧客の申し出を正確に伝えます。

 

 

カスタマーハラスメントに該当するかの判断手順を定めておく

顧客や取引先が主張してきたことが、カスタマーハラスメントに該当するかどうかを判断するためには正確な事実確認が必要です。

厚生労働省の、「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」には、企業がカスタマーハラスメントの疑いのある行為を受けた時の事実確認のフローが掲載されています。

 

引用元:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

 

 

顧客や取引先の苦情・主張が事実であるかどうかの判断は、対応している従業員がひとりで問題を抱えたり判断したりするのではなく、複数人で背景を含めた事実確認をしながら総合的に判断するようにします。

 

また、顧客や取引先の主張が事実であるのかカスタマーハラスメントに該当するのか、その場で確認することが困難な内容の場合は、後日連絡をとるようにします。

 

顧客や取引先が何らかの主張をしてきた場合の内容が、カスタマーハラスメントに該当するかの判断基準とその確認手順を定めておくことは、カスタマーハラスメントに対応するためのひとつの対策です。

 

カスタマーハラスメントと判断された時の対応

事実関係を判断したところ自社の商品やサービスなど瑕疵がなく、自社の過失もなく、顧客や取引先の要求が妥当でない場合などは、要求の手段が社会通念上、相当か不当かを検討し、カスタマーハラスメントに該当するか判断が行われます。

 

その結果、不当な迷惑行為つまりカスタマーハラスメントと判断された場合は、企業で策定している手順に従って対応します。

 

カスタマーハラスメントを受けた従業員への配慮

カスタマーハラスメントの中には、暴行や傷害などの身体的な攻撃やセクハラ行為が含まれる場合があります。

 

従業員が、暴力や暴言、脅迫などのパワハラ行為や身体を触られるといったセクハラ行為を受けている場合は、即座に業務を中断し上席が対応を変わるなどしてトラブルを最小限に留めます。また、安全配慮義務として、企業は従業員の安全確保もしなければなりません。

場合によっては、法律に触れることもあるため弁護士や警察との連携が必要となります。

 

また、カスタマーハラスメントを受けた従業員は精神的に多大な痛手やストレスを受けている可能性があり、休職や離職にもつながることもあります。
企業はカスタマーハラスメントを受けた従業員への配慮を行わなければなりません。
産業医、産業カウンセラーなどの専門家への相談や医療機関への受診は有効ですので、検討してください。

 

現場で対応が困難な場合の対応手順を文書化しておく

カスタマーハラスメントによっては、犯罪行為の可能性もあるため、警察や弁護士と連携しなければならないケースも出てきます。

現場で対応が困難な場合の対応とその手順をまとめておくこともカスタマーハラスメント対策のひとつです。

 

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」には、カスタマーハラスメントに関わる内部手続の流れが、フロー図として掲載されているので、一例としてご参考にしてください。

引用元:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル

 

同じようなカスタマーハラスメントが起こらないように再発防止を行う

カスタマーハラスメントが起こった場合は、今後同じような事例が起こらないように、原因を追究し再発防止を図らなければなりません。

 

カスタマーハラスメントは未然防止が難しいハラスメントですが、カスタマーハラスメントの事例を記録し、研修資料の改善に役立てることができます。

 

また、カスタマーハラスメントの原因が従業員の接客態度にあるような場合は、再発防止のために、接客スキルの向上を実施することでカスタマーハラスメントを防ぐ効果がみられるでしょう。

 

カスタマーハラスメントに対しての事前対策も重要

前述のカスタマーハラスメントが起きてしまった後の対応について、対策を打つことはカスタマーハラスメントをさらに大きくしないためにとても重要です。もし相手が感情的になってしまい、顧客や取引先が謝罪として土下座を強要した場合は、違法にあたるため損害賠償請求の対象となり得ます。そのような、クレームを肥大化させないための対応が求められるでしょう。

 

しかし、カスタマーハラスメントは未然に防ぐことが難しいといえども、事前の対策は必要になります。

 

この章では厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」をもとにカスタマーハラスメントに対して企業が取り組むべき事前対策を解説します。

 

基本方針・基本姿勢の明確化と従業員への周知

カスタマーハラスメントに対しての企業の取組を明文化して、トップダウンで従業員に明示することは非常に重要です。

 

従業員がカスタマーハラスメントを受けた場合に冷静に対処できるかどうかは、こうした企業のリスク対策の準備にかかっているといえるでしょう。

 

具体的には、カスタマーハラスメントに対する基本方針や基本姿勢を明文化して、企業が組織としてカスタマーハラスメントから従業員を守る方針を従業員に伝え、カスタマーハラスメントに対する対応方針について周知し啓発していきます。

 

被害を受けた従業員の相談窓口の整備

相談窓口などの体制を整備されていることで、従業員が的確に対応できるようにします。

カスタマーハラスメントが起きた場合に従業員がどこに相談したらいいか困惑しないように、対応体制を構築し、従業員が相談する相談対応者・相談窓口を決め、従業員に周知します。

 

対応方法・手順の作成

組織としてのカスタマーハラスメントが起きた場合の対応方法・対応手順を作成します。
対応方法・対応手順は、実際にカスタマーハラスメントが起きた時の事例を加味し、常に最新の情報に更新するようにしましょう。

 

たとえば、新型コロナウイルスの影響など、社会環境の変化によって新たなカスタマーハラスメントが発生する可能性があります。

 

従業員の研修

上記の基本方針・基本姿勢や相談窓口などの体制、対応方法・手順など、カスタマーハラスメントに関する内容を継続的に従業員に教育・研修を続けることが必要です。

 

従業員は日常的にクレーム対応を経験することが予測されますが、近年増加している悪質なクレーム(カスタマーハラスメント)についての考え方を明確に持っていない可能性があります。

 

そのため研修では、カスタマーハラスメントはどのようなクレームであり、正当なクレームとどのように違うのかといった基本的な内容から教育・研修を進めるべきでしょう。

 

苦情対応の基本的な流れや、謝罪方法や傾聴、事実確認など顧客や取引先との対応方法のポイントを研修項目として、事実確認の記録作成など具体的な実務についても教育します。

 

研修では、実際に起きたカスタマーハラスメントの事例を盛り込むようにします。

 

研修は役割別に実施することが望ましく、現場で顧客や取引先と接する担当者、上司や現場監督者、経営層など、カスタマーハラスメントに対するそれぞれの役割を明確に周知徹底して対応力を高めていきます。

 

まとめ

近年、カスタマーハラスメントの件数が増加しており、企業は早急に対応体制を整備することが求められています。

 

企業から顧客や取引先に対してハラスメントを未然に防ぐための対応を取ることは企業内のハラスメントと比べ困難であり、企業の基準でカスタマーハラスメント行為があったと認定された場合でも、ハラスメント行為者である顧客や取引先に対してなんらかの措置をする場合は、企業内のハラスメントと比べ困難であるという特徴があります。

 

カスタマーハラスメントが起きた場合に最善の対応をとるとともに、カスタマーハラスメントを未然に防ぐための事前対策も重要になります。

 

企業は、カスタマーハラスメントから従業員を守る安全配慮義務の姿勢を明確にして、対応を継続していきましょう。

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著者プロフィール
エイジスリサーチ・アンド・コンサルティング編集部

エイジスリサーチ・アンド・コンサルティングは、客観的調査データを活用したCSマネジメント体制を確立。ミステリーショッピングを中心とする「トータル・コンサルティング」で、お客様の店舗に最適なソリューションをご提案します。